※この記事の内容は、娘が「4歳0ヶ月」時点のものです。(娘の特性と当時の発達状況に基づいた内容になっています)
はじめに
「良かれと思って経験させたのに、それが毎回のルールになってしまった」
「対象から離しても、また同じことを繰り返す」
「制止しようとすると、激しい癇癪になる」
そう感じることはありませんか。
まずお伝えしたいのは、
それはあなたのせいではない、ということです。
お子さまの行動には、
意思や性格だけでは説明できない「脳の働き方」という背景があります。
関わり方で変えられることはありますが、
まずその背景を知ることが出発点になります。
この記事では、
「たった一度の経験がこだわりになるのはなぜか」を、4つの脳機能の視点で読み解きます。ここでは、それぞれを「4つの視点」として見ていきます。
「わが子の行動の見え方が少し変わった」
そう感じてもらえたら嬉しいです。
※4つの脳機能の全体像は、前編の看板記事でお伝えしています。
【自閉症×知的障がい】(前編)行動の見方が変わる:元看護師ママが伝える「4つの脳機能」の視点と希望
なぜ「一度の経験」でこだわりになる?4つの脳機能で読み解く
自閉症(ASD)× 知的障がい(ID)のお子さまは、
新しい経験が「その場限り」で終わらず、
その後の行動の”基準”として残りやすい傾向があります。
それは、脳に「安心パターン」ができやすいからです。
一度「安心できた」「混乱せずに終われた」と感じた場面が、
まるごと記憶に保存され、
似た状況や似た気持ちになったとき、
自動的に再生されていきます。
一方で、「怖かった」「嫌だった」という場面も同じように残り、
似た状況や似た気持ちになったとき、
「絶対いや」という回避パターンになることもあります。
この仕組み自体は、どのお子さまにも共通する自然な脳の働きです。
ただASD×IDのお子さまは、
そのパターンがより強く固定されやすく、
更新されにくいという特性があります。
だからこそ、ASD×IDのお子さまでは特に、
安心できた経験をひとつずつ積み重ねていくことが大切になります。——
そしてそれは、成長と経験の中で、少しずつ更新されていきます。
では、なぜこの「安心パターン」ができやすいのか。4つの脳機能の視点から見ていきます。
【視点①】「感覚+場面」がセットで記憶される
関わる脳機能:感覚処理ネットワーク
ASD×IDのお子さまは、
感覚の感じ方がその時の状況や日によって
「昨日は音に過敏だったのに、今日は音に鈍感」など、大きくブレやすい傾向があります。
常に揺れる船の上にいるような状態です。
だからこそ、
感覚負荷が安定しやすく、
自分のコントロールしやすい刺激や行動にしがみつきやすくなります。
新しい場面の中に「とても心地よい感覚」を見つけたとき、
その感覚と場面が強く結びつき、安心パターンとして保存されやすくなります。
🍀 娘の例:どの公園でも、自転車の鍵を片っ端から触っていく(1.2歳時ピーク)
娘にとって、公園の遊具の騒がしさや人の動きは感覚的に負担でした。
一方で、自転車の鍵には、冷たい金属感とカチカチ音という、自分のコントロールしやすい感覚がありました。
その「落ち着く」感覚と「公園の場面」がセットで記憶に残り、安心パターンとして定着しました。
【視点②】「一度うまくいった流れ」が「正解」になる
関わる脳機能:予測ネットワーク
ASD×IDのお子さまは「次に何が起きるか想像すること」が苦手で、新しい場面は常にサプライズにさらされるような緊張状態になりやすいです。
だからこそ「毎回ほぼ同じ結果が返ってくる」小さな世界が見つかると、そこが圧倒的に安全な場所になります。
一度うまくいった流れは「次も同じであるべきもの」として強く固定されます。
🍀 娘の例:絵本のセリフ指定
「のりものはてなえほん」を初めて読んだときのセリフ・読み方・ページをめくるタイミングが固定化。同シリーズの別の絵本でも初回のセリフで進めようとし、正しいセリフで読むと癇癪に。「この流れで混乱せず終われた」が脳に強く刻まれていたのです。
【視点③】やめたくても、止められない
関わる脳機能:抑制ネットワーク
ASD×IDのお子さまは、始まった行動にブレーキをかけたり、別のやり方に切り替えたりする機能が弱いため、行動が止まりにくくなります。
親から見ると「たまたまその日だけ水遊びを多めにさせた」程度でも、本人の脳には「このやり方=安心が戻った」という強い記憶+ブレーキの効きにくさが重なり、同じパターンが繰り返されます。
「わざとやめない」のではなく、「止められない状態」になっているのです。
🍀 娘の例:水遊びが止まらない
以前は公園に行くと水飲み場に一直線でした。家では今でも、気持ちが不安定になると洗面所や台所で衝動的に水遊びを始めます。そのことで、必死に安心に戻ろうとしています。
【視点④】「人の言葉」より「パターン行動」が優先される
関わる脳機能:社会脳ネットワーク
定型発達のお子さまは「お母さんが笑っているから大丈夫」「先生が『今日はここまで』と言ったからおしまい」と、人との関わりから安心と区切りをもらいます。
一方でASD×IDのお子さまは、人の意図や表情を読み取る脳の働きが弱いため、
「人の言葉」より「物や行動」のほうが脳に入りやすく、大人の声かけより
「自分で見つけた安心パターン」のほうがずっと頼りになります。
🍀 娘の例:幼稚園で「バイバイ」ではなく「おやすみ」と言う(3歳時)
家で「パパの部屋に行っておやすみを言ってから寝室に戻る」を習慣にしていたところ、幼稚園で帰り際に先生へ「おやすみ」と言うように。先生に「バイバイ」と返されても「おやすみ」と繰り返していました。先生の言葉より、「この場面はおやすみ」という自分のパターンのほうが、ずっと確かな手がかりだったのです。
4つの視点が重なることで、「一度の経験が毎回になる」背景が見えてきます。
- 感覚と場面がセットで記憶され(感覚処理)
- 一度成立した流れが予測として固定され(予測)
- 止めることや切り替えることが難しく(抑制)
- 人の言葉で調整することが難しい(社会脳)
また、安心パターンは、一緒にいる人によっても変わります。
娘の場合、同じスーパーでも「パパといると要求が少なく、ママといると要求が激しい」という違いがあります。
これはパパ・ママそれぞれとの場面で、
別の安心パターンが保存されているからです。
親によって見せる姿が違うのも、脳の特性として自然なことです。
関わり方の軸:こだわりを「続けられる行動」に育てていく
こだわりを「なくす」のではなく、「混乱せずに終われた」「安心できた」という成功体験を通して、続けられる行動に育てていくイメージで関わります。
- 否定せず受け入れる:「止められない」背景には「安心を求めているサイン」がある
- 安心環境を優先する:その日の感覚疲労やその場の刺激量を見ながら、無理のない環境に整える
- 安全な代替を用意する:同じ役割を持つ別の行動をつくる
- 見通しを持たせてあげる:見通しがつくと切り替えもしやすく、”安心して終われた経験”につながりやすい
- パパ・ママの違いを活かす:それぞれの安心パターンを尊重し、役割分担で支える
▶ 具体的な方法はこちら
【自閉症×知的障がい】こだわりを“ほぐす”5つの関わり方:元看護師ママが実践する安心ベースのスモールステップ
こだわりは成長と経験の中で更新されていく
脳の4つの神経ネットワークは、よく使う経路ほど太く安定していきます。
また、予測・抑制・社会脳を司る前頭葉は10代にピークを迎えながら、
20代まで成長し続けます。
そうした脳の成長と、
日々の関わりを重ねていく中で、
今あるこだわりや表出の仕方は更新されていきます。
娘の例:
- スマホの接触を断って1ヶ月半——スマホを目の前に手を伸ばすこともなくなった
- 公園での鍵・水飲み場への執着は、今は見られなくなった。水飲み場を前に、自分の指でバツマークをしながら「ダメー」と自分でブレーキをかけられるように
- 「バイバイ」のシチュエーションで「おやすみ」と言わなくなった
その渦中にいる時は「いつまでこれが続くんだ⋯」という気持ちになりますが、
実は、「こだわりは成長と経験の中で更新されていく」——ここに希望があります。
おわりに
「たった一度の経験がこだわりになった」——
それは、私たちにとってはエネルギーを奪われることかもしれません。
でもお子さまにとっては、「安心の体験だった」ということでもあります。
だからこそ、
今ある安心のかたち(こだわり)を大切にしながら、
日々の関わりの中で、そこから少しずつ
「こういう終わり方もある」
「こういう楽しみ方もある」
という新しい体験を重ねていくことで、
「続けられる行動」に育てていくことができます。
ほんの少しでも、見方や気持ちがやわらぐきっかけになれば嬉しいです。
親子の優しい時間が、毎日の中にそっと生まれますように🌈
ブログを書いている背景や想いはこちら
👉️ あすかのプロフィール
📚 あわせて読みたい
- 脳機能の視点から特性を理解する→【自閉症×知的障がい】(前編)行動の見方が変わる:元看護師ママが伝える「4つの脳機能」の視点と希望
- 関わり方の土台「順番支援」について→【自閉症×知的障がい】(後編)対応が変わる:元看護師ママが伝える「順番支援」の軸と具体的方法
