はじめに:そのこだわりは「わがまま」ではない
知的障がいのある自閉症のわが子の行動に、
「この状況、どうしたら良いの?」
「なぜうちの子だけ?」
と悩んでいませんか。
こんにちは。あすかです。
私には、知的障がいありの自閉症の娘がいます。
日々娘と関わる中で、
「成長のため」と思って
一度経験させたが最後、
それが毎回の“ルール”になってしまう。
対象から距離を離しても、
また同じことを繰り返す。
終わりが見えず、
まるで永遠のループにはまったような感覚。
話しかけても反応がなく、
ひたすら同じことをやり続ける。
言葉が届かない絶望感。
そして、ふと目に入る周囲の視線。
そんな状況に、
「善意でやることが、結局自分を苦しめる…」
「どう関わったら良いの?」
「やらせない方が良かった?」
「私の判断が間違っていた?」
と、葛藤する毎日を過ごしてきました。
でもまずお伝えしたいのは、それは
お子さまが頑固とか意思が強いとか、そういうことではなく、
親の関わり方や育て方の問題でもない、
ということです。
お子さまの行動には、
本人の意思や性格だけでは説明できない、
“脳の働き方”という背景があります。
この記事では、
「良かれと思って経験させたのに、
それがこだわりの引き金になってしまうのはなぜなのか」
その理由を、脳機能の視点から丁寧に整理していきます。
ここではまず
「理解すること」に焦点を当て、
具体的な関わり方については、
別の記事でお伝えします。
読み終えたとき、
「わが子の行動の見え方が少し変わった」
そう感じてもらえたら嬉しいです。
脳の特性として、安心パターンができやすい
知的障がい(ID)のある自閉症(ASD)の子どもたちでは、
新しい経験が「その場限り」で終わらず、
その後の行動の“基準”として残りやすいことがあります。
それは、脳の特性として
「安心パターンができやすい」からです。
🌸安心パターンとは?
一度「混乱せずに終われた」「予測できた」「安心できた」と脳が感じた
“場面そのもの”
この「安心パターン」が、
丸ごと脳に保存され、
度々再生されていくのです。
🌸安心パターンが再生される2つのトリガーとは?
①場面の断片が一致したとき(状況トリガー)
公園に着いた、自転車が見えた、金属のキラキラ(自転車の鍵)
…「どこかで見た場面」がスイッチに。
②心が不安定なとき(感情トリガー)
幼稚園で疲れた、スーパーでざわざわ、予測できない流れ
…あの安心場面なら、あの安心アイテムなら、あの安心行動なら「落ち着く」と脳が選ぶ。
・あの安心場面 → 場面再生
・あの安心アイテム → そのアイテムに一直線
・あの安心行動 → その行動を繰り返す
なぜ、安心パターンができやすいのか
ID×ASDの子どもたちは、
なぜ「安心パターンができやすいのか」
その理由を、4つの脳機能の視点でお伝えします。
① 感覚処理ネットワーク
―「体験+そのときの感覚」がセット記憶される
ID×ASDでは、
感覚入力の処理そのものが過敏・鈍麻など
「不安定でゆらぎやすい」ことが多いとされています。
例えば、
同じ場所・同じ活動でも、
その日によって
「うるさすぎる」「まぶしすぎる」「全然入ってこない」など
体験され方が大きく変わりやすくなります。
同じ音でも
「今日はすごく響く」「今日はほとんど聞こえない」など、
感じ方がその瞬間でブレやすいのです。
そうすると何が起きるか。
「常に揺れる船の上にいるので、
動きのパターン(こだわり)を固定して、
酔わないように」します。
つまり、感覚が乱高下する子どもたちは、
・「自分でコントロールできる刺激」や「結果が読める行動」
にしがみつきやすく(安心パターンができやすく)なります。
(例:同じおもちゃだけ触る、同じ道だけ歩く)
・公園のざわざわ・遊具の揺れ・水の冷たさなど
「新しい感覚の束」が一気に入ると、
予測しにくく負担が大きい一方で、
その中に「すごく落ち着く感覚(水の感触、鍵のひんやり、一定の音など)」が見つかると、そこだけが強く記憶されやすくなります。
その感覚パッケージが、「安心パターン」として強固に保存されるのです。
だから、
新しい経験は「出来事」だけでなく、
「そのときの感覚のまとまりごと」記憶されやすくなります。
それらの結果、
「こだわり行動(=安心パターン)」が
感覚の安定を保つためのセルフケア・自己調整として強化されます。
※ 揺れが大きい分、
特定の瞬間の感覚(声の大きさ・リズム・その時の体の位置)が
ドン!と目立ち、
「意味を整理する」余裕が後回しになります。
🍀娘の一例:公園で自転車の鍵
公園に行っても、
遊具ではなく自転車の鍵(冷たい金属感+カチカチ音+手の動き)に一直線でした。
その理由は、他のお友達がいたらなおさら、
「遊具で遊ぶ」ということは予測が立たず、緊張状態になりやすい。
そのため、結果が読めたり自分でコントロールできる刺激(鍵)に走ると考えられます。
② 予測ネットワーク
―「一度うまくいった流れ」が「正解」になる
ID×ASDでは、
「次に何が起こるのかを想像すること」「変化の結果を見通すこと」が苦手で、
新しい場面は「予測不能な世界」として不安を生みやすいと言われています。
新しい経験は「何が起きるか読めない」「予測が立たない」ので、
常にサプライズにさらされているような緊張状態にないやすいです。
その中で、たとえば
「水を触ると、ひんやり・音・光のきらめきが毎回ほぼ同じように返ってくる」
「自転車の鍵を回すと、同じ感覚・音が返ってくる」
といった“予測しやすい小さな世界”を見つけると、
そこだけが極端に安全でわかりやすい場所になります。
このように一度うまくいった流れや混乱せずに終われた体験は、
「次も同じであるべきもの」として強く予測に組み込まれます。
「全体としては不安定な新しい経験」の中から、
「ここだけは結果が読める」「ここだけは裏切られない」という島を見つけ、
それが“安心パターン”として強く残る構図です。
予測が弱いほど、
「いつもと同じ」「決まった順番」「決まった物」の方が安心で、
ここに強く引き寄せられます。
🍀娘の一例:絵本のセリフとタイミング
初回に読んだ “のりものはてなえほん” シリーズの絵本の
「セリフ+読み方+ページをめくるタイミング」が固定化。
同じシリーズの別の絵本でも、
初回の絵本のセリフで進めようとし、
私が正しいセリフで読むと癇癪になる。
これは、初回で「この流れで混乱せず楽しく終われた」と
脳に強く刻まれたからだと考えられます。
③ 抑制ネットワーク
―「やめたくても、止められない」
ID×ASDでは、
抑制ネットワークの働き:一度始まった行動を途中でやめたり(ブレーキ)、別のやり方に切り替えたり(シフト)する機能
が弱いため、行動が止まりにくくなります。
たとえ「今はやめたい」「切り替えなければいけない」と理解していても、
行動として止めることが難しいのです。
一度「これで落ち着いた」「この順番でやると安心だった」
というパターンができるとなおさらです。
親から見ると
「たまたまその日だけ水遊びを多めにさせた」
「たまたまその言葉でやり取り遊びをした」程度ですが、
本人の脳には
「このやり方=安心が戻った」というような 強い記憶
+ブレーキの効きにくさが重なり、
同じパターンだけを繰り返すようになります。
新しい経験の中で偶然できた「そのやり方」が、
不安軽減の“必須ルール”として固まり、
「それ以外は受け入れられない」状態に発展しやすくなります。
🍀娘の実例:水遊びが止まらない
公園では水飲み場を探し一直線でした。
家では気持ちが不安定になったり暇になると、洗面所や台所で水遊びを始めます。
どちらも「これで落ち着く」とわかった行動が、ブレーキが効かず自動反復されている状態です。
「好きだからやっている」「わざとやめない」と誤解されがちですが、実際には
「止められない状態」になっているとも考えられます。
④ 社会脳ネットワーク
―「人の言葉<パターン行動」の優先順位
ID×ASDでは、
社会脳ネットワーク(人の意図・表情を読み取る脳)の働きが弱いため、
人の言葉や表情といった社会的な刺激よりも、
特定の物や行動、動きそのものに
脳が反応しやすい傾向があります。
これは、脳の仕組みとして
「人の言葉」より「物や行動」のほうが
分かりやすく、 安心につながりやすいからです。
「楽しいから」「好きだから」というより、
その刺激のほうが、
「脳に入りやすく、残りやすい」という特性です。
定型発達のお子さまは、
「お母さんが笑っているから大丈夫」
「先生が『今日はここまで』と言ったからおしまい」と、
人の表情・声・関わりから「安心」と「区切り」をもらいます。
それに対しID×ASDでは、
こうした社会的な手がかりから安心したり切り替えたりする力が弱く、
「人に従う」より
「自分で見つけた安心パターン(水、鍵、特定の言葉など)」
の方がずっと頼りになります。
つまり、大人の「今日はおしまい」「次はこっちで遊ぼう」という合図よりも、
自分の“安心パターン”のほうが優先され、
その結果として、執着行動として現れる傾向があります。
🍀娘の実例:「おやすみ」を幼稚園で
家では、寝る前に、「書斎にいるパパの部屋に行き、『おやすみ』を言ってから寝室に戻る」ことを習慣にしていました。
すると、幼稚園の降園時やお友達とのお別れのあいさつ時、
「バイバイ」ではなく「おやすみ」と言うようになったのです。
先生に「バイバイ」と返されても、「おやすみ」としばらく言い続けていました。
「言葉の意味」ではなく、
「その場を離れる場面」ごと記憶していたのです。
人の「今の声かけ」より、
「過去にうまくいったやり方」
のほうが安心だから優先されます。
🌸まとめると・・・
ID×ASDでは、
・新しい経験が感覚ごと強く記憶され(感覚処理)
・一度成立した流れが予測として固定され(予測)
・止めることや切り替えることが難しく(抑制)
・人の意図で調整することが難しい(社会脳)
という状態が起こりやすく、これが
「一度やらせたら毎回になってしまう」
「善意で経験させたことがこだわりにつながる」背景にある脳の仕組みです。
では実際の子どもの行動では、
これら4つの脳機能がどのように同時に働いているのでしょうか。
娘の例で見る、4脳機能が全て働く「場面再生」
全ての場面で、4つの脳機能が同時に働き、「安心パターン→場面再生」を生み出しています。
| 場面 | 感覚処理 | 予測 | 抑制 | 社会脳 | 場面再生の姿 |
|---|---|---|---|---|---|
| 公園で鍵 | 冷たい金属感+カチカチ音 | 「鍵→安定」の流れが正解 | 触り始めると止められない | 遊具より鍵が確実 | 遊具より鍵に一直線 |
| 絵本 | セリフの音+ページめくる感触 | 「このタイミング=安全」 | 違うセリフに切り替えられない | 親の「違うよ」よりパターン優先 | 正しいセリフでも癇癪 |
| おやすみ | 「おやすみ」の音+移動感 | 「終わり+移動」の流れ | 場面再生が自動 | 先生の言葉より場面優先 | 幼稚園で先生に「おやすみ」 |
| やりとり遊び | 特定言葉のリズム・音 | 「この言葉なら安心」 | 他の言葉に抑制困難 | 親の提案よりパターン優先 | 想定外の言葉をかけられると癇癪 |
「場面再生しようとする脳」が見せる意外な柔軟性
娘の絵本には、もう一つ興味深いエピソードがあります。
入眠前の習慣として毎日読んでいた本を図書館で返却されても、
「いつもの本がない」と混乱せず、
その場で視覚的に惹かれる別の一冊にスムーズに乗り換えます。
これは、こだわりが永遠に固定されるものではなく、
・その瞬間に脳に入りやすい
・感覚的に分かりやすい
・成立しやすい体験
に、丸ごと上書きされていくのです。
抽象的な絵本には手を伸ばさず(表紙を見て瞬間的に開かない判断をすることがほとんどです)、「情報量が整理された視覚的に分かりやすい絵本」を圧倒的に選びやすいことも、
感覚処理と予測の特性だと思われます。
パパ・ママの前で見せる、安心パターンの違い
娘の場合、同じスーパーでも、パパとママで全く違う安心パターンが再生されます。
- パパの前 → こだわりが出にくい/要求が少ない
- ママの前 → こだわりが強く出る/要求が激しい
これは、
- パパ:「要求しないで穏やかに終わった場面」が安心パターン
- ママ:「要求→受け入れてもらえた場面」が安心パターン
として、それぞれ脳に保存されているからです。
※パパの前では「精神的な受け入れが薄い」から要求しないのではなく、
「現状維持が一番予測可能・安心」だからです。
でも、ママとも「要求せずに静かに終われる日」があります。
その理由は、「その日の感覚環境が安定していたから」と考えられます。
幼稚園(感覚疲労少ない)+スーパー(ざわざわ少なめ)
→ 感覚メモリに余裕 → 「要求しなくても穏やかに終わる」新場面成立
→ 「要求しない場面」が新しい安心パターンとして上書きされていきます。
「こだわりも上書きできる」ことに希望がある
ここまでお伝えしてきたように、
こだわりも「上書きできる」ことを伝えたいのです。
娘のスマホへの衝動性については、驚きの変化が見られています。
スマホの接触を断ち続けて1ヶ月半も経つと、
私のスマホを目の前にしても、癇癪どころか手を伸ばすこともなくなりました。
これも、「スマホの動画を見ずに過ごす」パターンが上書きされたと考えています。
「4つの脳機能は成長していく」ことに希望がある
公園での鍵・水飲み場の執着は、今は見られなくなっています。
水の刺激は依然魅力的で
「水飲み場→安定」は記憶に残っているにも関わらず、
自分の指でバツマークをしながら私の顔を見て「ダメー」と
自分でブレーキをかけられるようになりました。
抑制力の成長を感じます。
プラス、私の「よくがまんできたね。やったね。」の声かけに達成感を味わい、
「新しい安心パターンの上書き」がされたとも言えます。
絵本とやりとり遊びでの画面再生は今も健在ですが、
他の行動面などの変化を見ると、
脳のそれぞれのネットワークと情報処理の土台も
総合的に育ってきていると感じます。
関わり方:こだわりを受け入れて、「使えるパターン」に育てていく
親から見ると「してほしくない」こだわりでも、
ここまでお伝えしてきた「4つの脳機能」の特性を振り返ると、それは
「その行動をしたときに、混乱せずに終われた/予測できた/安心できた」経験が、
丸ごとパターンとして残ったものだと分かります。
だから関わり方も、
「こだわりをなくす」ではなく、
その良い経験を生かしながら
「続けられる行動」に育てていくイメージで進めます。
- ①否定せず受け入れる:
「止められない」ことを責めず、その背景にある「安心を求めているサイン」と捉える - ②「安心環境」を優先する:
その日の感覚疲労+その場の負荷を考慮し、「今日はどこまでやるか」を選ぶ - ③安全な代替を用意:
その子の脳が「入りやすい」感覚パッケージで、次の安心源を作る
(例:鍵の「冷たい感触+音」が好きなら鍵型おもちゃを、
水遊びなら光る砂時計を準備) - ④「上書き」の機会を少しずつ増やす:
視覚スケジュールや届きやすい声かけで、
「鍵→遊具→おやつ」「水遊び→次これ」などと見通しを示す。
それらの新しいパターンが「成立体験」として上書きされる。
(②により感覚メモリに余裕があると、上書き成功率UP) - ⑤パパ・ママの違いを活かす:
それぞれの「安心パターン」を尊重し、役割分担で支える。
(例:パパと少し難しい遊具挑戦、ママと安心+少し上書き)
これらの具体的な方法については、
「家庭での関わり方」カテゴリーで順次お伝えします。
おわりに:わが子に寄り添う、優しいまなざし
善意で新しい世界を見せたいのに、
それがコントロールできないこだわりになって返ってくる…。
「一度の経験が執着になる」現象は、
私たちにとって本当に悩ましいジレンマです。
でも今回お伝えした、4つの脳機能の視点で見ると、
それは「お子さまが頑固、意思が強い」という性格で説明できることではなく、
親の関わり方の問題でもなく、
「安心パターンができやすい」
脳の特性によるものなのです。
それは、
「常に揺れる船の上にいるので、動きのパターン(こだわり)を固定して、
酔わないようにしている」
ようなもの。
子どもたちは、ただ必死に、
安心を求めて自己調整しているのです。
ここで大事にしたい、もうひとつの視点は、
「固定されているように見えて、
実は日々新しいパターンで上書きされていく」
という事実です。
(娘の一例ですが)
絵本が2週間で更新されるように、
言葉が更新されていくように、
スマホへの衝動性とこだわりが上書きされたように、
子どもたちは変化し続けています。
そして、子どもたちの脳は、日々成長しています🍀
ほんの少しでも、
あなたの見方や心がやわらぐきっかけになれば嬉しいです。
そして、親子の時間が、
少しでも穏やかなものになりますように🌈
______
▶ 全体像を知りたい方へ(看板記事)
お子さまの特性や行動の全体像を
「自閉症×知的障がい」
行動理解のためにまず知ってほしい:「4つの脳機能」の視点と希望
で整理しています。
「なぜ起きているのか」をもう一段深く理解したい方は、
よければご覧ください。
▶ このブログについて(プロフィール)
このブログを書いている背景や想いは、
プロフィールにまとめています。
よければご覧ください。
