はじめに:その衝動性は「わがまま」ではない
こんにちは。あすかです。
私には自閉症と知的障がいのある3歳の娘がいます。娘と関わる中で、私を一番しんどくさせることの一つが、携帯や動画への激しい執着と衝動性です。
「視界に入った瞬間、表情が変わり、もう制御が効かない」 「たった一度でも見せたら、それがルールになり、崩れると激しい癇癪になる」
そんな状況を前に、「私の育て方が悪いの?」「どうしてうちの子だけ?」と、時に感情のやり場に困ってしまうこともあります。
きっと、私と同じような経験をされている親御さんも多いのではないでしょうか。
でも安心してください。これは私たちの育て方のせいではありません。お子さまの行動は、看板記事(「自閉症×知的障がい」行動理解のためにまず知ってほしい:脳機能の視点と希望
)でお伝えした脳の特性が、現代社会の「強い刺激」と出会うことで生まれているのです。
この記事では、保健師・看護師・娘との経験で学んだ知識を重ね、「なぜ止められないのか」「なぜそれがこだわりになりやすいのか」を、脳機能の視点から読み解いていきます。
なぜ「止められない」?衝動性が生まれる脳機能の3ステップ
携帯への衝動的な行動(奪う、癇癪)は、子どもたちの脳の感覚処理・予測・抑制という3つのネットワークが同時に絡み合って起こると考えられます。「一つの行動に複数の理由がある」という視点が大切です。
【STEP 1】最強の報酬:強い刺激への「感覚探求」
- 関わる脳機能: 感覚処理ネットワークの不安定さ
私たちの脳には、周りからの刺激(光、音、感触など)を受け取り、適切に処理するネットワークがあります。自閉症を持つお子さんの場合、このネットワークが非常に不安定で、刺激を強く感じすぎる「過敏」と、逆に感じにくい「鈍麻」が併存していることがよくあります。
感覚処理ネットワークの不安定さの行動化:脳の渇きを潤す「感覚探求」
携帯の動画への強い執着は、この「感覚鈍麻(過小反応)」が背景にあると考えられます。脳が刺激に対して鈍くなっているため、普通の遊びでは満足感を得られず、常に強い刺激を求めてしまうのです。
この感覚処理ネットワークの不安定さの行動化が、いわゆる「感覚探求」です。
娘にとって、動画の鮮やかな色彩や目まぐるしい動きは、いわば「脳の渇きを潤す最強の報酬」のようなもの。衝動的に携帯を奪おうとする姿は、喉がカラカラの時に水を求めるような、脳にとって切実な「感覚の調整」なのです。
「わがまま」や「しつけの問題」ではなく、不安定なネットワークを必死に安定させようとしているサインなのだと捉えると、少しだけ、わが子を「優しいまなざし」で見つめる余裕が生まれませんか?
【STEP 2】ブレーキのシステムがまだ未熟:「やりたい」が行動に直結
- 関わる脳機能: 抑制ネットワークの働きの弱さ
「見たい!触りたい!」という衝動のエネルギーが高まった時、脳の前頭葉の抑制ネットワークが、一旦ブレーキをかける役割をします。
しかし、自閉症の子どもたちは、この抑制ネットワークの働きがまだ未熟なため、衝動は「待つ」ことや「言葉で伝える」といった複雑な処理を経ることなく、「奪う」という行動に直結しやすくなります。
抑制ネットワークの弱さの行動化:「衝動の排出」
この行動は、高まった衝動エネルギーを「排出」することで、その後の爆発的なパニックを防ごうとしている側面もあります。
- 行動の意味: 衝動を止められず、エネルギーを即座に出し切ることで、脳の過負荷状態(強い刺激や不安)を一時的に「調整(リセット)」しようとしていると考えられます。
【🌸「知的障がい」も重なることの難しさ】
知的障がいの子どもたちの脳は、情報を整理・記憶する「情報処理の土台」が全体的に小さいです。「分からなさ」、「不安」の強さが大きくなりやすいため、抑制ネットワークがより働きづらくなります(抑制ネットワークの機能を妨げやすくなります)。
【🌸親御さんに知っていてほしいこと】
・この前頭葉の成熟は非常にゆっくりで、20代半ば頃まで続くとされています。今は衝動性が強いですが、脳は「発達途上」にあり、成長と共に変わっていきます。この視点を持つだけで、私たちの心の余裕につながります。
・子どもたちは衝動が強く見えますが、その背景には「【STEP1】感覚処理ネットワークの不安定さ」や「【STEP3】で言及する予測ネットワークの弱さ」が関係しています。
【STEP 3】安心の崩壊:「こだわり」化とパニック
- 関わる脳機能: 予測ネットワークの働きの弱さ
一度携帯を見て強い満足感(報酬)を得ると、それは子どもたちにとって「確実な安心感」を与えてくれる予測可能なルール(こだわり)として、脳に強く刻まれます。
そのルール(順番や時間)が破られると、予測ネットワークの働きが弱い脳は「世界が崩壊したかのように感じ」、その強い不安がパニック(癇癪)という形で表れるのです。
予測ネットワークの弱さの行動化:「安心の調整」
予測の弱さからくる「こだわり」や「パニック」は、「世界が崩壊したくらいに感じ」る不安から生じています。
- 行動の意味: 携帯を奪う、癇癪になる、という行動は、「予測可能な安心な状態(=こだわり)」を取り戻そうとする必死な調整行動であると解釈できます。
- → これは、「不安」という感情を「安心」に調整しようとする、切実な自己調整の試みと言えます。
娘の例で見る、携帯の代わりになる「自己調整」
娘の衝動性は、単に「動画が見たい」という感覚探求だけでなく、過負荷状態などに対する「自己調整」の役割が大きいと感じています。
娘が動画に対して癇癪になった時、私が娘の大好きな三輪車に誘うと、驚くほどスムーズに切り替わることがあります。
これは、三輪車を漕ぐことで、脳が求めていた感覚刺激(例:全身の運動、強い深部圧、リズム)が満たされ、「自己調整」が成功したことを意味します。動画の強い刺激と、三輪車の運動という強い刺激が、どちらも娘の「感覚の渇き」を潤す代替手段になっているのです。
このことから、「衝動的な行動」は、子どもたちが「今、私は不安定だから助けて」というサインだと捉えることができます。
関わり方:成長待ち+「少しの工夫」で前進します
子どもたちの脳の神経ネットワークと情報処理の土台が育っていくのを信じ見守りつつ、少しの工夫:「環境調整」と「成功体験」を提供していきましょう♪
- 環境調整で衝動のエネルギーを遮る(例:子どもの前では基本使わない、タイマーが鳴ったら終わり)
- 安全な代替行動(例:三輪車、感覚玩具)で、脳の渇きを潤す
- スモールステップで「待つ」「言葉で伝える」という経験を重ねていく
「待つ」「言葉で伝える」経験を、無理のない条件で何度も成功させていくことで、成功体験を積み重ねることができます。この経験は、前頭葉の抑制ネットワークを使う練習にもなるため、抑制ネットワークの働きの向上にもつながっていきます。
実際に、私も日々「少しの工夫」を習慣として実践していく中で、娘の変化を実感しています。
これらの具体的な方法や代替品については、「関わり方」カテゴリーの別記事で詳しくお伝えしていきます。
おわりに:わが子に寄り添う、優しいまなざし
携帯への衝動性や強いこだわりは、私たちのエネルギーを大きく奪います。
知的障がいもあるならなおさらのこと、「何度言っても伝わらない」「すぐに衝動的になる」と私たちは心を痛めますが、その行動の裏には「辛い感覚を何とかしたい」「安心したい」という子どもたちの必死な願いがあり、行動そのものが、子どもたちなりの必死な自己調整の試みなのです。
子どもたちは、精一杯生きているだけです🍀そして、子どもたちの脳は、これからもゆっくりと育っていきます♪
ほんの少しでも、あなたの心が軽くなったり、元気が出てもらえたら嬉しいです。そして・・・親子の優しい時間が、毎日の中にそっと生まれますように🌈
