はじめに
こんにちは。あすかです。
私には自閉症と知的障がいのある3歳の娘がいます。娘の健やかな成長のために、7つの療育機関や教育移住を経験しながら、日々子育てに向き合っています。
娘と関わる上で「共感」・「代弁」は意識してきたけれど、
娘の行動、反応を前に
・協力してよ
・何やってるの
・やめて
・イライラする etc…
そんな湧き上がる感情のやり場が分からず、結果として強い口調で当たってしまう自分がいて、しんどかったのです。
保健師・看護師として学んだ知識と、母としての経験を重ねる中で、ようやく「腑に落ちる理解」にたどり着きました。
「行動の背景にある4つの脳機能」を意識し始めると、自然と、
- (拒否しているんじゃなくて)感覚が辛いのかな
- (困らせたいんじゃなくて)自分を調整しようとしているのかな
- (情報処理の容量とスピードがゆっくりだから、何度教えても)難しいんだね。伝え方を変えていく必要があるかな
- (身体感覚が不安定だから)転びやすいんだね。
など考えられる場面が増えていきました。
- 少し「優しいまなざし」で娘を見られるようになり、
- 「今この瞬間、娘が直面している気持ち・しんどさ」に、思いを巡らせることが増え(本当の理由は本人にしか分からないとしても)、
- ゆっくりだけれど、娘のペースでこれからも成長していく、という確信と希望が持てるようになりました。
そうしていくうちに、私自身の心が少しずつ軽くなってきました。
もちろん今でも、毎日「自分との折り合いの闘い」に直面しますが、何度でもこの原点に立ち戻ることで、心のバランスを保てています。
同じようにしんどい思いをされている親御さんに向けて、この記事では、お子さんの行動を理解するための、基礎的な脳の捉え方についてお伝えしていきます。
🌈 私と娘がここに至った背景や日々の想いは、プロフィールにまとめています。よければ、あわせてご覧ください。
自閉症(ASD)と知的障がい(ID)の違いとは?
まず大前提として、自閉症(ASD) と 知的障がい(ID) は 別の特性 です。
●ASD=脳の神経ネットワークの「偏り」
偏りとは
・よく働くところと、そうでないところの差が大きい状態
・バランスよくではなく、あるところだけ強く/弱く働いている状態
・得意な道と苦手な道がはっきり分かれている状態
●ID=脳全体の構造や神経ネットワークの発達が全体的に「弱く」、情報処理の土台が「小さく・ゆっくり」している状態
=知的な発達が全体的にゆっくりで、「処理できる量やスピードが小さい」
ASD があっても知的な遅れがない子も多いし、
ID があっても自閉症ではない子もいる のが特徴です。
でも——
両方が重なると 、行動の背景が“複雑”になり、“困りごとの質” が大きく変わる。
ここを押さえておくと、次の「脳機能」の理解が一気に楽になります。
ASDを“脳の機能”で見る
3-1. 感覚処理ネットワークの働きに“ゆらぎ(不安定さ)”が大きい
(主に頭頂葉・側頭葉などの感覚野のネットワークが不安定)
入ってきた感覚(見る・聞く・触る・体の動きなど)の感じ方や整理のされ方が、そのときどきで安定していない状態。→強すぎる日もあれば、ほとんど感じない日もある。刺激によって過敏だったり鈍かったりが入り混じる。
感覚とは
目・耳・鼻・口・肌で感じる「五感 」+ 体の位置や動き・バランスを感じる「身体感覚」
五感と身体感覚それぞれに「過敏」と「鈍麻」がある。
→ 結果として、お子さんそれぞれに、様々な特徴が現れます。
たとえば、
- ある日は音にすごく敏感なのに、別の日は平気。
- ある場面では上手に歩けるのに、別の場面ではよく転ぶ。
- 服のタグが気になって何も手につかない日もあれば、まったく気にしない日もある。
- 食べ物の味・匂い・口の中の触り心地に強く反応し、「偏食」として表れやすい。
- 転びやすい・よくぶつかる・力加減が極端。
- 見本どおりに動きをマネする(模倣)が苦手になりやすい。
- こうした「不快さ(過敏)」や「物足りなさ(鈍麻)」を「自分で調整しようとして」同じ動きをくり返す・揺れる・人や物をさわって確かめる、といった行動が出やすくなる。
3-2. 予測ネットワークの働きが弱い
(前頭前野を中心とした“予測ネットワーク”が弱い)
・先の見通しを立てにくい
・予定変更・予測外に弱い
・不安からパニックにつながりやすい
3-3. 抑制ネットワークの働きが弱い
(前頭葉の制御ネットワークが弱い)
・「やりたい」を一旦止めたり切り替えたりすることが難しい
※衝動が強く見えるが、背景には「感覚のゆらぎ」や「予測の弱さ」が関係している
3-4. 社会脳ネットワークの働きが弱い
(前頭葉・側頭葉・扁桃体などの連携が弱い)
・人の気持ちや意図を読み取るためのネットワークの働きが弱い
・気持ち・視線・表情の変化が読み取りにくい
・「人」よりも「物」「ルール」「形」に注意が向きやすい
・集団の中で “空気を読む” ことが難しい
IDを“脳の機能”で見る
4-1.「情報処理の土台」が全体的に小さい・ゆっくりという特徴がある
- 理解→記憶→応用 のサイクルがゆっくり(脳全体で扱える「処理の容量」が小さい)
- 新しい情報を整理するのに時間がかかる
- ルールの意味を理解するまでに、細かいステップや繰り返しが必要
- 「理解しきれていないうちに場面が進んでしまう」が起こりやすい
周りのスピードについていけず、その結果、不安→混乱→問題行動のように見えることがある(でも根っこは「わからなさ」)
4-2.「強みの回路」がはっきりしていることも多い
知的障がい(ID)があっても、脳の中のすべての回路が弱いわけではなく、「ここだけはつながりが良くて、ぐんぐん伸びる」という得意なルートがある子が多い。
- 音やリズムをキャッチする回路が強くて、歌やダンスが得意
- 形や色を見分ける回路が強くて、パズルや積み木が得意
- 体の動きやバランスを感じる回路(身体感覚)が強くて、運動や水遊びが得意
その「得意な感覚の回路」を入口にすると、言葉・社会性・学習など、他の力も一緒に引き上げていきやすい。
ASDとIDが重なることで“困りごとの質”が一段と複雑になりやすい
5-1.「ASD×ID」で“困りごとの質”がぐっと変わる理由
- ASDだけなら「予定が変わるとパニック」「音や光がつらい」などの困りごとが主な特徴として表れやすい子もいる。
- IDだけなら「覚えるのに時間がかかる」「説明してもなかなか理解にたどり着けない」などが中心になりやすい。
これがASD×ID両方あると、
- 「そもそも理解するスピード・量が少ない」うえに
- 「感覚や予測・社会脳ネットワークにも偏りがある」
という二つの特徴が重なるので、
- 何が起きているのか分からない
- 先も見えない
- 感覚もつらい
が一度に起こりやすくなり、同じ出来事でも「分からなさ」「不安」の強さが大きくなりやすい。
その結果、
- 強いこだわりやかんしゃく
- パニックや逃避行動
- 周りからは「問題行動」に見えやすい行動
などが生じやすい。
診断名が2つあるからといって、ただ困りごとが「増える」だけではありません。
ASDとIDが重なると、分からなさや見通しの立ちにくさから不安が強くなりやすく、その結果、困りごとが複雑になり、1つ1つの困りごとの強さも大きく感じられやすくなります。
5-2. だからこそ大事になること
- 「脳の偏り」や「処理のゆっくりさ」を責めるのではなく、その子の脳に合ったスピードや方法で関わること
- 安心できる人・環境・見通し(安心+環境調整)を整え、栄養・睡眠・療育・薬物療法なども整えながら、感覚処理・予測・抑制・社会脳のネットワークが少しでも働きやすくなる土台をつくっていくこと
5-3. 強みの回路を見つけてあげたい
ASDとIDが重なり、感覚処理にゆらぎがあり、理解のスピードや量も全体的にゆっくりでも、その中に「好き」「安心できる」「続けられる」感覚や活動が見つかれば、そこがその子にとっての強みの回路になりえます。
ゆっくりでも育つ脳の力・ASD×IDの子どもたちの希望
●4つの脳機能(感覚処理・予測・抑制・社会脳)は、成長と経験の中で、つながり方を変えながら発達を続けていきます。神経ネットワークは、よく使う経路ほど太く、安定していき、情報処理の土台も、その子なりのペースで少しずつ「扱える量」と「スピード」が育っていきます。
●今日できないことも、「安心できる人・環境」と、「その子に合ったペースの小さな成功体験」が重なっていくことで、感覚処理・予測・抑制・社会脳のネットワークが少しずつつながり直し、明日のその子の働き方を変えていきます。そうやって、神経ネットワークと情報処理の土台がじわじわ育っていくプロセスそのものが、ASD×IDの子どもたちにとっての大きな希望になります。
●このことは、親にとっても大きな希望となります。
その成長を支えるのは「安心の土台」
●4つの脳機能(感覚処理・予測・抑制・社会脳)がゆっくりでも育っていくためには、まず「安心していられること」が何よりの土台になります。
●安心できる人・見通しの立つ(構造化された)環境・その子に合ったペースでの関わりがあると、脳は「身を守ること」に張りつめていたエネルギーを「学ぶこと・人や世界とのつながりを広げること」に回しやすくなります。
●ASD×IDの子どもたちでは、分からなさや感覚の辛さから不安が高まりやすいからこそ、「どう行動させるか」より前に「どう安心して過ごせるか」を整えることが、神経ネットワークと情報処理の土台を少しずつ育てていくいちばんの近道になります。
おわりに
・この子はずっとこのままなんだろうか。
・この先、特性がもっと強くなって、どんどん大変になっていくのではないか。
そんなふうに感じる親御さんへ。
自閉症×知的障がいの子どもたちは、たしかにゆっくりですが、その子のペースで、脳のネットワークと「できること」を少しずつ伸ばしていく力を持っています。
このブログが、日々の関わりを考えるときに、ほんの少しでも「心が軽くなった」と感じてもらえるきっかけになれば、嬉しいです。
