発達障がいや知的障がいを持つお子さんを育てている親御さんの中には、「エビリファイって実際どうなの?」と不安や疑問を抱えている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、自閉症スペクトラムと知的障がいのある3歳児の親として、そして保健師・看護師としての視点から、エビリファイを始めるまでの経緯、服用開始から12日間で見られた変化や副作用、親として感じたことなどをまとめています。
実体験だからこそ書けるリアルな情報が、同じように悩んでいる親御さんにとって、少しでも安心やヒントにつながればうれしく思います。
エビリファイ開始前までの娘の様子
乳児の頃から、不器用さ、共同注意ができない、模倣しない、いろいろな物をコマのように回す(おもちゃ本来の遊びをしない)といった様子が見られていました。1歳4か月で歩き始めたころからは、娘のこだわりと多動・注意困難が本格的に気になり始め、1歳9か月から「自閉スペクトラム症の疑い」の意見書のもと、民間の療育に通い始めました。
2歳3か月からは母子同伴で幼稚園のプレに通いましたが、多動とこだわり(混乱して周囲の声かけが頭に入らず、安心するために自分の知っているもの・ことを探す=多動に見える)のため、ほとんど活動に参加できませんでした。周囲の視線がつらく、次第に私の方が行き渋りになっていきました。
発達障がいの子が安心して過ごせる環境が整っている幼稚園を求め、マンションを売却し、同じ都内で「教育移住」をしました。現在通っている幼稚園ではマンツーマンで加配がつき、娘自身は楽しく元気に通っていますが、先生方もやはりこだわりや注意集中の難しさへの対応に試行錯誤しているとのことでした。
家ではとにかく娘を観察し、その都度環境調整に徹してきました。療育で娘が学んだことや、先生方の関わり方も積極的に取り入れながら過ごしてきました。
しかし、こだわりや癇癪は次第に強くなり、娘のさまざまな感情・意思が成長しているにもかかわらず言葉で伝えられないため、奇声も頻繁に出るようになりました。知的障がいもあるだけになかなか学びも積み上がらず、「こんなにもずっと同じことをやり続けているのに……」と「報われない気持ち」を定期的に感じていました。
「もう全部やり切った。この子は(多動とこだわりで)学ぶ機会さえ作れないまま大きくなっていくのだろうか……」という不安が出てきた時期でした。
3歳5か月で自閉スペクトラム症、発達性協調運動症(DCD)、ADHD疑いの診断を受け、3歳6か月で実施した田中ビネー知能検査Vの結果から、中度知的障がいの診断も受けました。診断を聞いたとき、ショックというよりは「やっと出発点に立てた!」という晴れやかな気持ちが大きかったです。これまで、周りの大人や医師でさえ、私の訴えや違和感を十分に理解してもらえない経験を何度も重ねてきたためでもあります。
現在は幼稚園に加えて、民間のマンツーマン療育(ABA)、民間の小集団療育、市の発達支援センター(小集団)、作業療法と、複数の支援を受けながら生活しています。
医師に内服を勧められた時に感じたこと
知能検査の結果はIQ42で、注意集中を持続させることの困難さや、興味関心による取り組み方の波が顕著であると説明されました。
さらに、「夏休み明けから家でも幼稚園でもこだわりが強くなっている」という話を医師に伝えたこともあり、「お母さん、やれることは全部やっているから……薬、使ってみない?」「ずっと飲み続けなきゃいけないわけじゃないのよ」とエビリファイを勧められました。
薬を勧められる心の準備は正直できておらず、一瞬戸惑いました。ただ、もともと薬に対して否定的な気持ちはなく、「薬を使うことで本人がよりハッピーに、より成長を助けてくれるのであれば使う価値はある」という考えを持っていました。
それ以上に、「これ以上どうすればいいのだろう」という気持ちが強く、飲むかどうか迷う理由はありませんでした。
「エビリファイは次のような症状に処方されます」という説明書きを読むと、「すぐに気分が変動する」「ドアをバタンと閉める」といった項目が特に当てはまり、「まさに今の娘だ」と感じたのを覚えています。
エビリファイの基礎知識
エビリファイは、主に統合失調症や双極性障がい、自閉スペクトラム症(ASD)などの治療に使われる非定型抗精神病薬で、小児にも適応があります。
ドパミンやセロトニンなど複数の神経伝達物質に作用し、「興奮」「癇癪」「多動」「不安」などの症状を和らげることを目指す薬で、強い癇癪や攻撃性の改善効果が報告されています。
ただし決して「万能薬」ではなく、環境調整や療育・家族の支援など、ほかの支援と組み合わせて使うのが基本です。
主な副作用としては、眠気、食欲増進、体重増加、落ち着きのなさなどがあり、まれに不随意運動(錐体外路症状)や高血糖なども報告されています。特に小児では、日々の様子を丁寧に観察することが重要になります。
エビリファイ開始時の娘の年齢・体重・容量
- 販売名:エビリファイ散1%
- 年齢:3歳7か月
- 体重:15.5kg
- 容量:エビリファイ散1% 0.05g(1g中に10mgなので0.5mg)/夕食後1回
エビリファイ服用後の具体的な変化
服用を始めた翌日の朝から、娘の様子に明らかな変化を感じました。
- 多動が軽減し、それまでのように家の中を走り回ることが減り、穏やかに一人遊びをしている時間が増えました。
- 指示も入りやすくなり、食事や着替えが以前よりスムーズに感じられました。スーパーでの買い物でも、「今日は買わないよ」という説明がすんなり通り、思わず感動したほどです。
- やりとりが成立してきた感覚もあり、一緒に遊べる時間が少しずつ増えたことで、結果的に動画視聴の時間は減りました。
- 「違うところ(公園)に行きたい」など、自分の要求を「落ち着いて」言葉で伝えてくれる場面も見られています。
- 睡眠にもはっきりした変化がありました。寝つきが良くなり、睡眠時間が長くなりました。中途覚醒はあるものの夜泣きはなく、服用開始後は昼寝をする日も出てきました。
食欲は変わらず(偏食はありますがよく食べています)、日中の強い眠気なども特に気になることはありません。全体として活気があり、元気に過ごせています。
幼稚園での様子をうかがうと、「動き回らなくなった」「指示が入りやすくなった」「言葉が増えた」とのことで、家庭での変化と同じ印象を先生方も持っていました。
服用後数日の段階で、幼稚園や療育施設に様子を確認したところ、「少しボーっとしているように見えた」と言われて気になりましたが、ほんの数秒程度で、「活動に支障が出るほどではない」とのことでした。
総じて、以前より娘の精神状態は安定し、活動により参加できるようになっているように感じます。そして、私自身も夫も、育児のしんどさが軽くなりました。
こだわりや要求そのものがなくなったわけではありませんが、その後に続く癇癪などがマイルドになった印象です。
エビリファイを開始して私が気になったこと&どう対応したか
服用を始めてすぐ、多動が落ち着き、静かに過ごしている様子に、正直「別人のようだ」と感じました。きっとこれが多くの子どもにとっての「普通」の姿なのだろうと思いつつも、もともと多動でエネルギッシュだった娘を知っているだけに、「元気いっぱいの娘がいなくなってしまったのでは」「個性が消えてしまったのでは」と、不安な気持ちが強くなりました。
さらに、幼稚園の先生からも「3歳で薬を飲んで大丈夫なのか」という率直な不安の声があり、私自身も改めて悩みました。
そこで、かかりつけの薬剤師さんと医師の双方に、心配している点を率直に相談しました。3歳での服用そのものについては問題ないこと、そして「子どもの良さが消えてしまうのではないか」という不安は、多くの保護者が共通して感じる悩みであることを教えてもらいました。「こだわりや要求の“中身”は変わっていない」という点にも気づき、個性が失われたわけではないと納得できるようになりました。
内服開始から10日ほどたつと、家では以前のようにトランポリンを楽しむ、今まで通り元気いっぱいの娘の姿が見られました。
エビリファイ開始後も変わらないこと
とはいえ、いわゆる“不適切行動”がなくなったわけではありません。注意を引きたい時や、思い通りにならない時などには、ドアをバタンと閉めたり、寝転がって足でドアや壁を蹴ったりする行動は続いています。
そのため、これまでと同じように、環境整備やかかわり方の工夫が大切であることに変わりはありません。
また、「周りが気になって、いまやっていること(やるべきこと)への集中がすぐ途切れてしまう」という特性も残っています。集中しやすい環境づくり(構造化や声かけの工夫など)は、今後も引き続き必要です。
副作用はあった?
はっきりとした副作用はありませんでしたが、強いて挙げるとすれば、服用開始から3日間排便がなかったことです。もともと便秘気味で、ときどき酸化マグネシウムで調整しているものの、3日間まったく出ないというのはあまりないパターンでした。
また、偏食は続いているものの、その範囲の中で食欲が増し、結果として食事量が増えています。これは内服の面では助けになりました。娘は薬をヨーグルトやアイスクリームに混ぜないと飲めないのですが、以前は「食べない」と拒否されると内服自体をあきらめざるを得ないことも多くありました。エビリファイ開始後はそのような場面が大きく減り、服薬のハードルが下がりました。
12日間エビリファイ内服後の医師の評価
12日間の服薬状況を客観的に振り返るため、日々の様子・行動・食事・排便(性状・回数)、睡眠(就寝時刻・起床時刻・昼寝時間・総睡眠時間・寝つき・中途覚醒・夜泣き)を記録し、診察時に医師へ共有しました。
幼稚園での様子として、以前より精神的に落ち着いて過ごせていることを伝えると、「頭に指示が入りやすくなった結果、外部からの声かけや指示を受け取り、実行しやすくなっている」との説明がありました。言葉が増えている点も含め、「とても良い傾向」と評価されました。
今後の見通し
今後も容量は変わらず(エビリファイ散1% 0.05g=0.5mg/日)で継続です。
2か月後に再度評価を行い、必要であれば調整していく予定です。「ボーっとしているように見える」点については、どのくらいの時間・頻度で見られるのか、今後も経過観察していくことになりました。
便秘に関しては、モビコールと適宜ピコスルファートを使いながら、無理のない範囲で排便コントロールをしていくよう提案されました。
また、「とにかく褒めてあげること」の重要性について改めて話がありました。「私たちはどうしても、子どもがやっていることを“当たり前”と感じてしまい、褒めることを忘れがちになる。けれど、褒めることは薬以上に効果があることも多い」との言葉が、とても印象に残っています。
感想
エビリファイ開始後の娘の変化を見ると、これまで行ってきた環境整備や声かけの工夫だけでは届かなかった部分も、全体として良い方向に向かっていると実感しています。薬によって脳内の神経伝達物質のバランスが整い、「不安」が軽減したことで、4つの脳機能(感覚処理・予測・抑制・社会脳)が全体として働きやすい状態になっているのではないかと考えています(4つの脳機能については、看板記事「自閉症×知的障がい」行動理解のためにまず知ってほしい:脳機能の視点と希望の中で詳しくまとめています)。今後の変化や成長が楽しみであり、小さな変化ーー新しくチャレンジできたことや、できるようになったことなど――を一つひとつ見つけては、その都度しっかり褒めて一緒に喜ぶことを大切にしていきたいと思います。
また、医師の言うとおり、「褒める」は本当に強力な強化子だと感じています。褒めることで、娘のいわゆる“不適切行動”が減る実感があります。誰にとっても、褒められる経験はうれしく、自信になり、心の安定にもつながります。そして、その心の安定こそが、脳機能の働きと成長を支える土台になるのだと感じています。
幼稚園や療育などの場で参加できることが増え、「楽しい」と感じられる瞬間が広がっていきますように。落ち着いて過ごせる時間が増えることで学びの機会も増え、「できた」という経験を重ねながら、自信とチャレンジする気持ちが育っていきますように。生活全般の生きづらさが少しずつ和らいでいきますように。
