はじめに:親子がより穏やかに過ごせるように
こんにちは、あすかです。
前回の記事(「見たら即パニック」スマホへの衝動性はなぜ起きる?:親のせいじゃない、脳の仕組みとこだわりの真実)では、スマホや動画への激しい執着や衝動性を、脳機能(感覚処理・抑制・予測ネットワーク)の視点から「自己調整の試み」として捉えることをお伝えしました。
今回はその続編として、実際にどのように関わっていけばいいのか——
つまり「どうすればあの大爆発が減るの?」「動画の要求にどう応えたら良いの?」をテーマに、私が日々実践している「環境調整」と「スモールステップ」の工夫をご紹介します。
焦点は「我慢させる」ではなく、“脳が頑張らなくても穏やかに過ごせる仕組み”を整えること。この視点を持つだけで、子どもたちの行動が少しずつ変わり始めます。
行動全体の土台となる脳機能のしくみは、看板記事(「自閉症×知的障がい」行動理解のためにまず知ってほしい:脳機能の視点と希望)にまとめています。こちらを合わせて読んでいただくと、今回の「関わり方」がよりイメージしやすくなるかと思います。
この記事は、親子がより穏やかに過ごすための実践ガイドです。
少しでもあなたの参考になれば、嬉しいです。
「環境調整」は、子どもが安心して頑張れる土台づくり
抑制ネットワークの働きが弱い子どもたちにとって、環境は“行動の結果”を大きく左右します。
スマホの衝動を「抑える力」に頼るのではなく、「我慢せずに済む環境づくり」が第一歩です。
① 「見える」を減らす=衝動の入口を閉じる
スマホの存在そのものが、子どもにとっては“報酬のスイッチ”。
視界に入った瞬間に脳が刺激され、抑制ネットワークが働く前に衝動が走ります。
- 家では決まった場所(例:娘の手の届かないボックスの中、扉付き棚、マットレスの下)に隠す
- 使うときは別室で、大人だけが操作
- 同室で使う場合は、娘の視界に入らない位置を選んで使う(例:高く設定した昇降テーブルの上に置いている、高さのある文房具ボックスの手前で操作する)
- 出先では、スマホを“出さないルール”を家族で共有(実際、これを徹底しているのはママの私だけ。娘はパパと2人でいるときは衝動的にならないのです。)
これだけで「奪いに行く」「怒り出す」頻度は目に見えて減ります。
①‐1. 隠しても“スマホスイッチ”が入ってしまう
娘の場合、出先では私がスマホを出さなくとも、何かの理由・または小さな理由の積み重ねで脳が過負荷状態になった時、公園のブランコでは刺激が物足りなくなった時など、私のカバンのチャックを勢いよく開け、スマホを取りに来ることが起こります。または「動画!」と突如要求してくることがあります。
そのため、ストレスがかかりそうな場面(たくさんあります)が想定される時は、どこにスマホをしまうか頭を悩ませますし、何ならスマホを家に置いていく選択をすることもあります。最近は、スマホで写真を撮ることさえできません。それくらい、特にストレス時はスマホに対する衝動性と執着が爆発します。
①-2. 隠してもパソコンの場所が見つかってしまう
パソコンに関しては、私が何度パソコンの場所を変えても、何度娘の目を盗んで取りに行っても、素早く追ってくるので見つかってしまいます。
「動画見たい人は座って待ってて」と声をかけても、「パソコンを自分で〚この向きで持って〛運ぶ」こだわりが強いため、必ず私を追ってきてしまいます。
ちなみに、我が家では1年ほど前にテレビ自体を撤去しました。
理由は、「常にそこに置いてあるテレビ」が娘の執着になり、対応する日々のしんどさに親が耐えられなくなったからです。テレビに覆いをしたり試みましたが、難しかったのです。
もしもう一度子育てをやり直せるなら、娘に特性があると最初から分かっていたら、乳児の頃から徹底してテレビを見せない選択をしていたと思います。
②スマホ・動画を見せる時の対応
前提として、自閉症(ASD)×知的障がい(ID)の子どもたちが、スマホや動画への衝動性とこだわりは必然です。
- ASDでは、社会的な刺激よりも【特定の物・行動・興味】に対して、【快楽・報酬を感じる神経伝達物質:ドーパミン】が分泌されやすいです。
- そのため、「同じ動画」「同じ遊び」「決まったアプリ」など、【結果が予測できて】確実に“快”が得られる活動に、行動が集中しやすくなります。
- またIDがあると、抽象的な遊びや複雑なコミュニケーションよりも、分かりやすい刺激と即時のごほうびが得られる活動の方が理解しやすく、選ばれやすくなります。
その前提の上で・・・見せれば「もっともっと」の悪循環になってしまうので、「見る時はできる限り制限付きで」というのが娘への対応の現実です。
- 娘が「動画見たい」など言葉で伝えられた時は、「上手に伝えられたね」としっかり褒めて、パソコンを渡す。
- 「ご飯が終わったら見ようね」とか「着替えたら見ようね」など見通しを伝える。
- タイマーをかけて(朝はMax30分、夜もMax30分、一日の合計60分を目標に)、タイマーを見せながら「ピピッとなったらおしまいだよ」と伝える。
- タイマーが鳴ってもおしまいにできない場合、「この(途中の)動画が終わったらおしまいね」
- それでも終わりにできない場合は、パソコンの横に「娘の食いつきの良いもの(例:シールやはさみのワーク)」をそっと置く。成功すれば、パソコンをやめてそちらにシフトする。
- それでも終わりにできない場合は、最終手段の「三輪車行く?」「公園行く?」
これらで成功することも多いです。 - それでもダメな場合は、「ママ出かけるよ」と家を出る仕草を見せれば、自主的にパソコンを閉じることも多いです。
娘にとっては、「“次の楽しみ”がある、“動画をやめる動機”がある」状態にならないと、「タイマーが鳴ったからおしまいの時間だ」と頭で理解はしていても、「抑制力」ですぐにやめるのはまだ難しいことです。
ここでは主に「どう関わるか」という実践面に焦点を当てていますが、スマホ衝動性や“動画スイッチ”そのものを、脳のネットワークごとに詳しく分解した内容は、前回の記事(「見たら即パニック」スマホへの衝動性はなぜ起きる?:親のせいじゃない、脳の仕組みとこだわりの真実)にまとめています。
「なぜこんな行動になるの?」を理論から整理したい方は、そちらもあわせてどうぞ。
③「強いドーパミン」を出さずに、満足感や安心感で刺激を置き換える
娘の「三輪車スイッチ」のメカニズム
ストレス時、娘はスマホの強い視覚刺激で「脳の渇き」を満たそうとします。
一方で、三輪車を漕ぐという行動は、体の奥に伝わる強い深部圧刺激によってセロトニン分泌を促し自己調整を助けてくれる働きがあります。
だからこそ、“満たされる刺激”の切り札をいくつか持っておくことが大切だと感じています。
自己調整を促す代替アイデア(娘の例)
| 自己調整のための刺激 | 代替となる活動・道具 | 脳への効果 |
| 視覚刺激(動きがゆっくりで予測しやすいもの) | ・光る砂時計 ・スノードーム ・パズル ・シールあそび | ・ゆっくりとした可視的な変化を見ることで、衝動のエネルギーが鎮まりやすくなる。 ・パズルやシールは「完成」「貼れた」という達成感も加わり、注意を一点に集めることで気持ちの高ぶりを落ち着かせやすい |
| 深部圧刺激 深部圧: ・体の中の筋肉や関節にかかる「ぎゅっとした圧力」を感じる感覚 ・肌の表面ではなく、体の奥深くで「今、体がどれくらいの力で押されてる?」「手足がどこにある?」と脳に教えてくれる感覚 | ・三輪車 ・トランポリン ・バランスボール ・抱きしめる ・だっこ ・食材を器に入れるなどの簡単なお手伝い | ・深部覚は前庭覚とともに、副交感神経を優位にし、セロトニン分泌を促して落ち着きや集中力を高める ・リラクゼーション効果(ストレスホルモン減少・不安軽減)や、姿勢制御・注意持続の助けになる ・「お手伝い」は深部覚だけでなく、「役に立てた」という自己効力感も加わり、満足感の高い自己調整になる |
| 前庭覚刺激 前庭覚: 耳の奥にある三半規管や耳石器が、「まっすぐ立っている?」「傾いている?」「ぐるぐる回っている?」を感じ取る感覚 | ・だっこグルグル ・おんぶ ・肩車 ・公園のブランコ 上記は、深部覚+前庭覚の同時刺激 | ・深部覚との組み合わせで相乗効果が生まれ、体の緊張をほぐして「落ち着けるモード」に切り替えるスイッチになりやすい ・前庭覚だけ(回転イスやその場で回るなど)をたくさん刺激すると酔いやすい子もいるので、様子を見ながら“少しずつ・短時間”で切り上げる |
| 味覚・報酬系(ドーパミンが出やすい刺激) | ・甘いおやつ ・せんべい | 「少量のごほうび」として使うことで、安心感や満足感を与え、動画以外の報酬源を増やすことができる |
動画スイッチ前の予防と、スイッチ後の切り替え支援(2章③の実践編)
娘の「機嫌が悪いな」「脳が過負荷状態になりそうだな」「遊びに飽きてきているな」と感じた時には、「動画!」の要求が来る前に、だっこグルグルやおんぶ、お手伝い、パズルなどで深部圧や前庭覚、視覚を意図的に刺激するようにしています。
そうすると、その後落ち着いて過ごせることが増え、「予防としての自己調整」がうまく働くのだと実感しています。
いったん動画スイッチが入ってしまった後でも、同じような刺激を使うことで、刺激に喜び気持ちが切り替わることもあります(もちろん毎回うまくいくわけではありませんが、試してみる価値は十分にあると感じています)。
また、娘が公園で動画の要求をしてくる時は、「公園では見ないよ」と断ります。すると、癇癪を起こす前に「だっこ!」と要求してくることもあります。娘なりの「自己調整の試み」と捉え、全力で応えるようにしています。そうすると、気持ちを切り替えて前進できることも多いです。
「スモールステップ」で育つ“自分で切り替える力”
「やめなさい!」では育たないのが、抑制ネットワーク。
ブレーキの働きは、“使う経験”を積み重ねることで強くなっていきます。
「前頭葉は20代まで育つ」という希望を胸に、日々できる範囲でやっていきましょう。
①「言葉で伝える」練習(衝動の代わりを作る)
- スマホに手を伸ばす前に、絵カードや簡単な言葉(例:「か・し・て」)で要求する。
- 要求が言えたら、見せてあげる。「言葉で伝えたら要求が通る」という成功体験を積んでもらう。
娘から一瞬でスマホを奪われ間に合わないことも少なくありませんが、可能な限りこの練習を根気よく続けています。冷静に「か・し・て」と伝えることは難しいですが、頭文字の「か」と伝えると、その後「し・て」とは言えるようになり、続けて「何て言うの?」など問いかけると、「か・し・て」と言うこともできるようになってきました。
②「待つ」と「おしまい」の練習(前頭葉を使う経験=抑制力を育てる)
動画に限らずですが、娘の要求の嵐に「待ってね」を多用する日々。
はじめは癇癪になりますが、「待ったら良いことがある」という経験を何度も重ねていくと、「待つ」ことができるようになります。これだけでも、子育てのしんどさがだいぶ違ってきます。
- 「待つ」の練習
- 最初は数秒でも待てたら成功
- 待てたら大げさに褒めて、すぐにパソコンを渡す
- 「おしまい」の練習
- タイマーで時間をセットし、「ピピッて鳴ったらおしまいよ」と伝える
- 終わりにできた時は、「止められたね。すごいね」と具体的に褒め、だっこグルグルなどの安心刺激で締める
この“達成の快感”がドーパミン報酬となり、次の挑戦を後押しします。
③「伝えても通らない」経験を一緒に乗り越える
様々な理由で動画を見せられない時もあります。
そんな時は、代替行動もセットで提示して、感謝の気持ちで締めます。
- 上手に伝えられたね。
- でも、今は〇〇だからできないんだ。ごめんね。
- 代わりに〇〇しようか。
- ありがとう。ママ助かるよ。
④できない日も「まだ練習の途中」と捉える
衝動性が強い日や体調・感覚が不安定な日には、できないことも当然あります。
それは“まだブレーキの神経回路が練習中”というだけのことです。
家族で「同じ見通し」を共有する
関わりの工夫が効果をもつために、一貫性は大事です。
家庭内で対応が大きく違うと、予測ネットワークが混乱して再び不安が高まります。
- 「ルール(時間・場所)」「終わりの合図」「褒め言葉」の共通化
- 「今日はどうだった?」と日々の小さな変化を確認し合う
娘はパパの前では衝動が弱いので、その違いも話し合っています。
おわりに:「できることから、一歩ずつ」で大丈夫
私は日々、衝動と癇癪の対応だけでなく、予防のためにもいつも頭はフル回転です。
でもこの苦労は、娘が「どう安心して過ごせるか」を整えていくことで、神経ネットワークと情報処理の土台を少しずつ育てている時間でもあるのだと信じています。
成長とともに確実に変わっていくプロセスの中で、これからも環境調整で守り、スモールステップで育てていきたいと思っています。
スマホ衝動性や動画へのこだわりも、脳のネットワークがまだ育っている途中だからこそ起こる行動だと分かると、見え方が少し変わってきます。
こうした脳機能の全体像や、「なぜこの行動になるのか」をもっと深く知りたい方は、看板記事(「自閉症×知的障がい」行動理解のためにまず知ってほしい:脳機能の視点と希望)もぜひ覗いてみてください。今回の「関わり方」とあわせて読むことで、わが子の姿が少し立体的に見えてくると思います。
この記事が少しでもあなたのヒントになれば、嬉しいです。
日々の小さな成功を、わが子と共に喜んでいけたら素敵ですね🌈
